BtoBのアクセス解析の展望。解析ツール4社が徹底討論(後編)

BtoBのインバウンドマーケティングを実践するにあたって、Webアクセス解析ツールをどのように活用するべきなのか。前回に引き続き、Webアクセス解析ツールベンダー4社にお集まりいただき、それぞれの立場からの意見を聞いた。

※この記事は旧ブログ「INBOUND marketing blog」から移行したものです。

【目次】


参加いただいた方々

小坂淳氏株式会社環
取締役 小坂淳氏

 

岩本 庸佑氏株式会社ギャプライズ
テクノロジー・ソリューション事業部 エヴァンジェリスト 岩本 庸佑氏

 

小原良太郎氏株式会社Ptmind
co-founder 事業戦略部部長 小原良太郎氏

 

西川ジョニー雄介氏株式会社アッション
執行役員 西川ジョニー雄介氏

 

小林利光氏 株式会社アッション
新規市場開拓室長 小林利光氏

 

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Webサイトに価格表は載せるべきなのか、外すべきなのか

中村:前回は、読まれてないコンテンツを読まれるようにして、コンバージョンを上げるというお話がありましたが、他にコンバージョンを上げるための施策は?

岩本氏:読まれていない部分を読んでもらうには、例えばファーストビューを価格で訴求したり、導入実績で訴求したりと、ストーリーや訴求軸を変えることでユーザの目線を変えることができます。どこを読んでもらえれば自社の強みが伝わるのかなどをテストして見つけて行けばコンバージョンにも影響を及ぼす一つの施策だと思います。

また組織体制次第で、確度の高いリードだけを集めることもあれば、確度が低くても件数を多く集めることもあり、コンバージョンまでの敷居の高さを変えることで違ったストーリーにすることが可能です。営業が強い組織の場合は確度が低くても、訪問して説明することでお客様の反応が変わることもあります。

弊社では、価格表はWebサイトにはあえて掲載していません。価格についてお問い合わせをしてもらうようにしたら、問い合わせ件数が月間70件から170件にアップしました。ですからWebだけで完結しないで、営業も含めた体制でどう成約につなげるか考えるといいですね。

組織の特性に合わせたWeb施策を打つべきと語るギャプライズ・岩本氏

小坂氏:シビラは低価格路線なので価格は出さないといけない情報です。

岩本氏:クリックテールはサポート面を含むので高額になることから、他のツールと価格だけで比較されたら選定に入らないことが多いです。しかし、営業が話をして費用の理由を説明することで他との差異を認めてもらえます。

小林氏:価格面の出し方としては、弊社ではいろいろなプランがありますが、一番人気の1種類のみを出しています。

小原氏:弊社は低額プランに関してはWeb決済のみにして価格は表示しています。営業戦略の話になりますが、低価格で訪問営業は難しい部分があるので、価格を公開していくことでWebから成約するようにしています。

岩本氏:クリックテールが最初に日本に上陸した時、競合は1社くらいでした。マーケターにヒートマップについて啓発するというタイミングでは無料版でハードルを下げてマーケットをつくることが重要でした。

BtoBのインバウンドマーケティングでは自社の商品のマーケットが顕在化しているのか、それともまだ潜在的なのかでも変わりますし、コンバージョンのポイントも変わります。今はヒートマップツールのマーケットが顕在化したので、Web決済でも成り立つようになったのかもしれないですね。

中村:入力フォームのA/Bテストというとどういうところがありますか。

岩本氏:入力フォームのセオリーが本当なのかクリックテールを見てテストをしてみました。例えばGoogleが推奨している入力フォーム(項目名と入力フィールドを縦に並べる)は本当に効果があるのか、またはそのサイト(ターゲット)には適当であるのかといったことですね。

あと、デザイン系のお客様で入力フォームにFAXが含まれていたのでこれは必要か、ということを聞いてみました。そうすると、デザインの確認でFAXを使うことがあるので、というんですね。デザインを確認するタイミングならその前の打ち合わせでFAX番号は確認できるでしょう、ということで削除したことがありました。

クリックテール社からの情報ではエントリーフォームの項目を1つ減らすとフォームCVRが1.5%上がると言われています。

小坂氏:ただ、提案しても会社のガイドラインで項目を変更できないこともありますよね。

岩本氏:そこはマーケティング担当者が削ることによるメリットとデメリットについて、テストデータ(一定数に絞り込んだテスト実施)をもとに説得できるといいですよね。


Googleアナリティクスは無料!しかし、解析するための時間的コストは?

中村:Web解析ツールの選び方のポイントは?

岩本氏:スタートアップから問い合わせをいただくこともあるのですが、事業フェーズの中で高額のツールを導入するのはリスクがありますよね。そういう時は競合ではありますがPtmindさんを暗に紹介することがあります。

ヒートマップを使ってもらうということは自社ツールでなくてもマーケットが広がるということです。Ptmindさんは裾野を広げることができる価格帯です。

クリックテールの売りの1つはサポート面にあります。Web解析ツールは、使って解析して改善してはじめて成果がでます。そこまでには、「使う」というハードルがあって、解析のスキルハードルがあって、仮説立案のハードルがあるので、そこをどうフォローするかになります。導入時には1-2時間のミーティングを複数回行いトレーニングとコンサルティングをします。例えばチーム全体に参加してもらい、最初はツールの使い方などを教えて、2回目、3回目は自分たちで改善のアイデアを持ってきてもらうというパターンがあります。ツールを使える環境、改善していく環境まで持っていくサポートを重視しています。

小坂氏:使えるかどうかが重要ですね。Googleアナリティクスでいいという人もいますが、やりたいことや、やる人によっては解析に時間がかかる場合もありますから、やりたいことを先に決めて、それに合うツールを選ばないと非効率です。

シビラは完全自社開発なので機能要望にも答えられますし、使える環境にするサポートもします。

解析ツールは人的リソースに合わせて選ぶべきと説明する環・小坂氏

西川氏:弊社もカスマイズは積極的に対応しているので強みになっています。

A/Bテストの場合、見た目が変わるので読み込み速度に影響が出る場合がありますが、Visual Website Optimizerの場合、非同期型タグなのでユーザへの影響が少ないことも売りになっています。

また、他のツールと比較して最適化の考えが違います。他社では、セグメントに合わせてバナー10個、ページ10個を用意して組み合わせを変えるような配信の最適化もありますが、弊社のようなA/BテストツールはWebサイトやページ自体をどう変えて最適化するかというアプローチです。

小原氏:ツールを使うには時間的コストがかかるのが課題ですが、そこを使いやすく、共有しやすくすることで費用対効果が変わってきます。ツールベンダーとしてもサポートをしなくてもよくなるように技術面とデザイン面で工夫をすることでコスト削減にもなります。

小坂氏:Googleアナリティクスは無料といいますが、仕事が優秀な人が解析に時間をかけて数字を見ることになって他の仕事ができないと、その人の時間がもったいないですし、解析で終わって改善まで行かないことがありますよね。
改善する時間や予算をしっかり確保して成果を出すためにどのツールがいいのか考えるほうがいいです。その結果Googleアナリティクスを使うのはいいと思います。


日本よりも先を行く中国のWeb解析事情とは

西川氏:皆さんに聞きたいのですが、改善策を思いつかないマーケターのために、解析した結果から自動的に改善ポイントをシステムやツールが提案するようなサービスは今後出てくると思いますか?

アドバイスまでしてくれる解析ツールは出てくるかと質問するアッション・西川氏

岩本氏:確実に出てくると思いますよ。表示されるアドバイスを精査するのは人間になりますが。

小坂氏:Webの要素はいろいろありますが、この商品はこういう人に向いているというような属性を提案することができるのではないでしょうか。今、ロジックを考えているのですが、ヒントは出せても、サイトの要素をこう直すという部分は難しいですね。

先ほどのお話でも、読まれてないコンテンツを切り捨てるのか、それとも読まれるようにするのかというお話がありましたが、改善策は1つではないですからね。

小原氏:自動アドバイスはやっていきたいですね。海外でもありますが、ビッグデータの話になって、データを蓄積して共通化できる部分を提案するということになります。ただ、クライアントのA/Bテストの結果をノウハウとして共通化して提供するのはNGだったりしますよね。

Ptmindの本社は中国ですが、中国の場合A/Bテストでも桁が違うのでその部分は進んでいます。中国はエンジニアの技術力が高く、給料も高いんです。

ただ、中国の例が日本に当てはまるかというとそうではありません。海外展開する企業が日本のノウハウを元に海外進出しても通用しないことが多く、そこでまたヒートマップが必要になります。逆も同じで英語圏のサイトリニューアルに合わせて日本版もなおしたら尋常じゃないくらいコンバージョンが下がったこともあります。他言語化サイトといっても翻訳しただけではダメで、国に合わせた情報の出し方があります。


企業が個人に近くなる時代。BtoBの売り方も変わっていく

中村:今後のインバウンドマーケティングはどうなるのでしょうか。

小原氏:BtoBもBtoC化が進むでしょう。弊社はWeb決済を導入していますが、昔と違って決済に絡む人が減ってWeb担当者や部署レベルで導入を決定できるようになっていると思います。今までのような展示会をやってホワイトペーパーを出してというのが効かなくなって、BtoCのノウハウが流れこむとマーケティングががらっと変わると思います。ツールのクチコミが当たり前になり、それを見て導入を決定するというような流れが来るのではないでしょうか。

BtoBにもBtoCのマーケティング要素が活かされると説明するPTmind・小原氏(左)

西川氏:今後は、生き残りをかけて世界を相手にビジネスをする必要がありますが、海外からの問い合わせがあったときに訪問営業というわけには行かないので、決済の仕組みも請求書払いではなくオンライン決済が主流になっていくかもしれませんね。

小坂氏:世界とローカルと二極化すると思いますね。

中村:アドテクと融合していくという見方もありますが。

西川氏:少ないターゲットに対し高価格で提供するか、それとも低価格でマスを狙うかで違うかもしれませんね。ビッグデータ活用という点では、まずは多数のお客さんが必要で、データが蓄積出たらアドテクにつながるというようになります。

全体的なトレンドとして、会社が個人に近くなっていることがあると思います。20年くらい前は何十年かけて大規模な企業が形成されていきましたが、今の時代はWebサービスですと半年で数百万ユーザを相手にするような大企業顔負けのサービスが生まれます。小さな個人事業だったものが半年で大企業のような影響力を持つので意思決定の方法も変わってきますから、BtoBの営業方法も変わってきますよね。半年前にただの個人だった人が今は日本全体に影響力をもつ企業の代表だったりするわけですから。


BtoBのマーケティングはクリエイティブな仕事!視点を高く持ちその先を予測せよ!

中村:最後にBtoBマーケターにアドバイスをお願いします。

岩本氏:営業とマーケターが連携してトライアンドエラーで改善を続ける必要があります。現場の変化、競合の変化、お客様の変化を一番知っているのは営業なので。そして、それをWeb上で再現、仕組化、効率化、最適化するための環境としてテストツール、ヒートマップがあります。まずは環境を整えるところ、改善のサイクルを回す人をアサイン(育て)することですね。そこから先は我々のような経験、知識のあるツールベンダーを上手く使っていただき、組織を強くしてもらえればと思います。そこについては、我々は全力でサポートしますので。

小林氏:コンサルタントに頼るのではなく、マーケターが自分で管理画面を開いてデータを見るところからだと思います。

Web担当者は自分自身でも解析をしてみるべきと言うアッション・小林氏

西川氏:ミクロの視点にとらわれすぎて、マクロの視点に欠けている人が多いと思います。データを見たらそれだけでなく、世の中のトレンドや全体の戦略を見られる人が重要です。営業との連携、会社の経営方針、国の動き、世界との関係など視点を引き上げていくことが大事ですよ。

小坂氏:コンテンツマーケティングがうまくいかない1つの理由はスピードが足りないことだと思うので、アウトプットを恐れずに書いていかないと成長しないと思います。

小原氏:マーケティングは売れる環境づくりで、市場を作るのも重要です。営業が新規市場開拓をやっていることをマーケティングも一緒にやっていけるといいと思いますし、そう考えるとBtoBのマーケティングは創造的で面白い仕事だと思います。

中村:皆様本日はいろいろなお話をいただきありがとうございました!

→前編はこちら


参加者プロフィール

小坂淳氏株式会社環
取締役 小坂淳氏

銀行勤務や起業の経験を経て、2000年に環を創業。2001年にアクセス刑事、2004年にシビラを開発・発売開始。
BtoB中心にウェブ解析のコンサルティング等を行う傍ら、2010年のウェブ解析士立ち上げに参画。ウェブ解析士マスターとしても活動。
一般社団法人ウェブ解析士協会 事務局長を兼務。

 

岩本 庸佑氏株式会社ギャプライズ
テクノロジー・ソリューション事業部 エヴァンジェリスト 岩本 庸佑氏

クリックテール事業の創業メンバーとしてジョイン。クライアントワークにおいてクリックテール、Google Analytics、テストツールを活用したコンサルテーションサービスを多数提供。
adobeジャパン共催セミナー、デジタルハリウッド大学、旧アクセス解析イニシアチブ (旧a2i))において、ヒートマップセミナー講師として登壇。他多数。GAIQホルダー。

 

小原良太郎氏株式会社Ptmind
co-founder 事業戦略部部長 小原良太郎氏

ヒートマップ分析も可能なデータアナリティクスツール「Ptengine」をグローバルに提供する株式会社Ptmindの創業メンバー。元々は知識Q&Aサイトを運営するOKWaveにてQ&Aプラットフォームのアライアンス提供と広告を担当。
その後、2010年に株式会社Ptmindの創業に参画。現在は事業戦略部としてマーケティングやアライアンスを統括。

 

西川ジョニー雄介氏株式会社アッション
執行役員 西川ジョニー雄介氏

新卒入社した株式会社モバイルファクトリーでソーシャルアプリのプランニングを担当し、A/Bテストの魅力を知る。2012年12月アッションに移りすぐに、A/Bテストをどんな企業でも即実施可能にするA/Bテストツール”Visual Website Optimizer”に出会い感銘を受け、同ツールを活用したコンサルティング事業を立ち上げる。
現在は大手企業向けコンサルティングの他、同事業のマーケティング・広報・採用も行う。

 

小林利光氏 株式会社アッション
新規市場開拓室長 小林利光氏

「世界のどこでも通用するビジネスマンになること」を目標としアッションに入社。入社直後、自社ポータルサイト「プリスクールナビ」の広告営業リーダーを務め、クライアント数3倍、利益4倍にまで成長させる。
その後LPOコンサルティング事業の立ち上げに参画。A/BテストツールVisual Website Optimizerの導入企業増加の為の自社マーケティング活動、営業活動を行う傍ら、解析ツールを用いた、コンサルテーションサービスで、多数クライアントの売上増加に貢献。
高校時代には山梨県代表としてサッカー全国大会に出場した。

 

中村竜次郎株式会社ガイアックス
INBOUND marketing blog 編集長 中村竜次郎

広告制作にコピーライター、ディレクターとして携わり、2011年に株式会社ガイアックスのインバウンドマーケティング事業に参画。徹底した調査分析と企画設計、投資費用を回収し利益化するまでのKPI策定、コピーライティングとディレクション、リード獲得から受注支援まで、Webマーケティングを概念、実務レベルで支援する。


<執筆>

深谷歩株式会社 深谷歩事務所
代表取締役 深谷歩

ソーシャルメディアやブロクを活用したコンテンツマーケティング支援を行う。Webメディア、雑誌の執筆に加え、講演活動、動画制作も行う。またフェレット用品を扱うオンラインショップ「Ferretoys」も運営。

著書
『小さなお店のLINE@集客・販促ガイド』(翔泳社)
『SNS活用→集客のオキテ』(ソシム)
『小さな会社のFacebookページ制作・運用ガイド』(翔泳社)
『小さな会社のFacebookページ集客・販促ガイド』(翔泳社)