アクセス解析ツール「Ptengine」創業メンバーに聞く。サービス登録者5倍増のプロモーション

アクセス解析ツール「Ptengine」を提供している株式会社Ptmind。初心者ではなかなか使いこなせないGoogle Analyticsなどのアクセス解析ツールとは違い、ヒートマップやフィルタリングといった機能で、視覚的にわかりやすく見せるところを得意としている。2013年にはグッドデザイン賞を受賞。そんな「Ptengine」が昨今行ったマーケティング施策が功を奏し、大きな成果をあげたと聞き、事業戦略部 部長 小原良太郎氏に話を伺った。
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※この記事は旧ブログ「INBOUND marketing blog」から移行したものです。

【目次】


株式会社Ptmind co-founder 事業戦略部部長 小原良太郎氏

ヒートマップ分析も可能なデータアナリティクスツール「Ptengine」をグローバルに提供する株式会社Ptmindの創業メンバー。 元々は知識Q&Aサイトを運営するOKWaveにてQ&Aプラットフォームのアライアンス提供と広告を担当。
その後、2010年に株式会社Ptmindの創業に参画。現在は事業戦略部としてマーケティングやアライアンスを統括。


成熟したアクセス解析ツールの市場でどう戦うか

―― 「Ptengine」のビジネスモデルについて 教えていただけますか。

小原氏:無料で簡単にネットショップやWebサイトを作れるツールが多く出ている中で、アクセス解析の必要に迫られている方も多いのですが、Google Analyticsは無料で使える一方、初心者には難しくて使いこなせないという声が多くあります。その原因を解消して、いかに簡単に使ってもらえるかを追求しているのが「Ptengine」の差別化ポイントです。

また、国内のBtoBサービスでは珍しく、1ヶ月無料トライアルで次月以降の継続利用を促すのではなく、フリーミアムモデルを採用しているのも特徴です。自社サーバで運営しているので、サービス提供初期には空いているサーバーリソースを無駄にせずに、使ってくれた人がクチコミで広めてくれればマーケティング費用にも換算できるということで、PVや機能を絞った無料プランを用意しています。

―― サービスの提供を始めたのはいつですか?

小原氏:当初、スマートフォン専用のヒートマップツールとして2011年にスタートしたのですが、PCサイトも見てみたい、通常の解析もしたいといったご要望を多くいただき、一から作り直しマルチデバイスに対応した総合アクセス解析ツールとなったのが2013年の7月です。


インフルエンサーを活用したBtoBマーケティングの決定版

―― 「Ptengine」のビジネスモデルについて 教えていただけますか。

小原氏:ソーシャルメディア上の影響力を測れる「Klout(クラウト)」のスコアが50を超えている個人の方に対し、弊社で企業向けに年間数百万円で提供している機能制限無しの最上位プランを無料で開放するというものでした。自己申告でURLをもらって、条件に当てはまればアカウントを提供したんです。200名弱ほどの方にお申し込みいただきました。

―― キャンペーン自体への誘導はどのように行われましたか?

小原氏:プレスリリースは出しましたが、どこにも取り上げてもらえなくて(苦笑)。初期は条件を満たしている人を探して、こちらからアプローチしました。その中で興味を持ってブログで取り上げてくださった方がインフルエンサーだったので、ブロガーさんのネットワークに広がって、いろんなところで記事にしてもらい、さらにはてなブックマークが400〜500付く記事もあったりして、Gunosyからの流入も増えて…という形で、どんどん膨らんでいきました。

―― キャンペーンによって、数値的にどれくらいの成果が出ましたか?

小原氏:Webサイトへの流入がすごく増え、登録数が通常の4倍〜5倍に激増しました。それまでは1桁台だったコンバージョンレートが30%〜40%に伸びましたね。キャンペーンにお申し込みいただいた方だけでなく、記事を見て無料プランに興味を持ってくださった方もたくさんいましたし、SEO効果も含めていろいろな波及効果があったと思います。

―― 売上の変化についてはどうですか?

小原氏:はい、増えました。我々のターゲットである企業のデジタルマーケッターの方々は、ソーシャルメディアやRSSリーダー、ニュースアプリなどで情報収集されているので、ある程度の拡散力があるコンテンツができると、どこかしらに接点ができて、自然と目に入るんですよね。いろいろなところに我々の名前が露出していることで、「最近よく見るので」とお問い合わせをいただいたり、営業先やパートナーさんからも大きな反響があったりもしました。


Kloutスコアを50に設定した理由

―― 今回のキャンペーン施策に至った経緯は?

小原氏:「Ptengine」は使いやすくてわかりやすいので、無料プランを用意していれば誰かがブログで紹介してくれると思っていたのですが、実際スタートしてみると上手くいかなくて。フリーミアムモデルは結局、確率論なので、母数が大きくならない限り、売上は増えないんです。そのために、なんとか認知度を上げないといけないのに、アクセス解析の話は新鮮みがなくて、なかなかメディアでは取り上げてもらいにくいという課題がありました。

―― キャンペーンでなくても、直接ブロガーさんにアプローチできたのでは?

小原氏:こちらからお願いするのは、ブロガーさん的には記事広告にしたいという思いがあるかもしれないし、ステマっぽくなってしまいそうで、なかなか難しいなと思っていました。オープンなキャンペーンにすることで、お互いが対等になって自由に書いてもらえるんですよね。だから批判されることもありますが、それはそれで良いんです。我々が「Ptengine」を知ってもらいたいのは、日頃、多数のメディアに触れているデジタルマーケッターさんですから、広告や宣伝かどうかは、すぐに見抜かれてしまいます。良かったにせよ、悪かったにせよ、本音が書いてある記事だったからこそ、記事からの流入もたくさんあったのではないかと思いますね。

―― インフルエンサーの定義をKloutスコア50にしたのはなぜですか?

小原氏:何人かのブロガーさんを比較して、この人がこれくらいなら50でいいのかなと設定しました。50って、TwitterやFacebookを毎日がんばれば、なんとかなる絶妙なラインなんです。このキャンペーンを自分事として捉えて、がんばって50に到達した方が応募してくれるので、コミットメントも高まって記事にしてもらいやすし、インフルエンサーとして認められた喜びも与えられる。これが60とか70だと、有名な方しか対象にならないので、自分には関係ない話だと思われて、ここまでの結果は出せていなかったのではないでしょうか。

―― ブログで記事を書くのはキャンペーンに参加する際の必須条件にしたのですか?

小原氏:いえ、必須条件はソーシャルメディアで拡散してもらうことだけです。ブログへの記事化については、メールで「ぜひお願いします」と一文添えただけですね。正確な数は把握できていませんが、それでも50本以上は書いていただけたと思います。

―― 実際に記事になった例を教えていただけますか?

小原氏:美女読書」という、美女が本を紹介する書評サイトを運営されている方なのですが、どのようにサイトが閲覧されているのかを細かく分析して紹介いただきました。ヒートマップで視覚的に紹介できるので、コンテンツにもしやすいのではないかと思います。記事の中でどこまで見られているのかということもわかるので、「美女の写真だけで留まらずに、ちゃんと書評も読まれていて、よかったね」と(笑)PVやソーシャルボタンの数値だけではなく、コンテンツの読まれ方がわかるので、美女読書さんのように、ビジネスとしてメディア運営されている方にも、よくご利用いただいています。記事はこちら(現在リンク切れ)

「美女読書」をPtengineで解析したヒートマップ。画像以外の部分での閲覧率が高い

BtoBマーケッターが学ぶべきはBtoCマーケティング

―― ブロガーさんの記事を見て機能追加に活かすことはありますか?

小原氏:あります。「Ptengine」はリアルタイム集計なので、かなりの負荷がかかって、ちょっと重いという指摘を受けました。それは随時対応もしましたし、高速化するために完全に違うアルゴリズムを近々実装する予定もあります。また、今回のキャンペーンの反響を受けて、料金を下げたプランを追加するとともに、Web決済も導入しました。これによって、かつては個人が有料化することはほとんどなかったのですが、個人でも有料プランをご利用いただくことが増えましたね。

―― ソーシャルメディアマーケティングの手法を多く取り入れていらっしゃるようですが、貴社では自社アカウントの運用もされているのですか?

小原氏:いちおう運用はしていますが、あまり力はかけられていません。まずは認知度を高めるというところに力を入れてきたので、知名度が高まった段階でソーシャルメディアや自社メディアに力を入れていきたいと思っています。

―― 今後のマーケティング施策について教えてください。

小原氏:BtoBマーケティングは決まりきっていて、展示会やセミナーで集客して、メールを送って、スコアリングが高い方にアプローチするというような、リードの増やし方が“足し算”ですよね。このやり方だけに頼って、リードの母数を確保して急拡大するのは難しいと思っていて。今回の施策のように、BtoCマーケティングのノウハウを取り入れることで、“足し算”ではなく“かけ算”にできることがわかりました。知名度が上がればイベントやセミナーにも来てもらいやすくなるので、従来の施策の効果も高まるはずです。これからもBtoCの施策を研究しながら、新しいBtoBマーケティングを模索していきたいと思います。


<取材・原稿>

野本 纏花(まどか)氏花野本 纏花(まどか)氏
フリーランスライター。大学卒業後、GMOインターネット株式会社にてマーケティング業務に従事。その後、数社を経て、2011年よりWriting Marketing Company 518Lab(コトバラボ)として独立。All About インターネットサービス ガイド。アスキーWebProfessional、MarkeZine、ライフハッカー[日本版]、サイボウズ式、roomie、HRナビなど、Webを中心に様々な媒体で執筆を重ねている。