「Canva」普及で、素人が抱く“デザインの壁”を取り除きたい

「無料にすれば、すぐに利用者は増えるだろう」と、マーケターは安易に考えがちではないでしょうか。そのせいか、様々な場面でマーケティング施策としての「無料キャンペーン」に出くわすことが少なくありません。しかし、フリーミアムモデルでデザインツール「Canva」を提供する株式会社KDDIウェブコミュニケーションズの大原武氏に話を聞くと、無料だからとユーザーが自然と増えるのではないことがわかります。Canvaで実践しているユーザー数を増やすマーケティング施策や手法について、ゼネラルマネージャーである同氏に語ってもらいました。

課金を狙うよりも、ユーザー数増加を目指す

―クリエイターでなくても使えるデザインツール「Canva」は、世界中に1000万以上の利用者がいるそうですね。

大原:「Canva」は、ポスターや名刺、ビジネス文書、グラフパーツなどが、デザインできるツールです。通常なら、専用アプリケーションを用意して、クリエイターに頼まなければならないようなデザイン性の高いテンプレートや素材を数多く揃えています。

直感的な操作が可能なため初心者でも使いやすいことが最大の特長でしょう。全世界で1000万人以上のユーザーを抱える、オーストラリア発のWebサービスです。日本版は2017年5月にローンチしました。

Canvaのビジネスモデルは、ユーザーに無料サービスとして使い始めてもらい、より高度な機能、サービスを使う時に課金する、いわゆる「フリーミアムモデル」です。ほとんどの機能を無料で使えるため、多くの利用者がコストやスキルを気にせず、気軽にオシャレなデザインを制作しています。

さらにデザインにこだわりたいユーザーには、有料の写真素材やテンプレートを購入してもらいます。ここが、課金ポイントの1つです。その他には、作成したデザインを共有したり、コーポレートカラーを設定できるなど、チームでの利用に適した「Canva for Work」という月額サービスや、近日公開予定の印刷サービスなどもあります。


株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
Webサービス事業本部 Canva事業部 ゼネラルマネージャー 大原武氏
https://www.canva.com/

―ビジネスとしてサービスを提供していますので、利用者に対して、課金を促進するような施策を実施しているのでしょうか。

大原:無料ユーザーが大半ですが、今のところユーザーに課金を促したり、有料会員数を増やすための施策はほぼ行っておりません。と言うのも、フリーミアムモデルは「数の経済」という側面が大きいため、無料ユーザーの課金を目指すよりも、ユーザー数自体の増加に力を入れています。

サービスの登録に際してメールアドレスしか取得しておらず、ユーザー層はあくまでも感覚値ですが、ブロガーの方が多いと感じています。記事のアイキャッチ画像などを作成されているようです。Web界隈の方が多いのは、我々のプロモーションが届きやすいためではないでしょうか。その他ですと、例えば幼稚園のイベント案内や、個人商店のチラシの作成にも使われています。


「デザインならCanva」と自然に想起されるように

―現在、ユーザー数増加に注力されているとのことですが、どのような施策に取り組んでいるのでしょう。

大原:ユーザー獲得を目的としたオンラインの施策は、SEO対策がメインです。具体的な手法としては、Canvaと関連する検索キーワードで、何か行動を起こそうしている「Doクエリ」のキーワードと、ニーズがマッチするランディングページを作るなどの取り組みをしています。

「Doクエリ」のキーワードには、ユーザーが何かに対してアクションを起したい、といった意図が含まれていますよね。例えば「チラシ 作成」という検索するユーザーは、きっとチラシを作成したいと考えているでしょう。そういう検索ユーザーのニーズに対応したランディングページを用意し、新規ユーザー獲得につなげています。

なお、ランディングページのコンテンツ内容について、特に意識しているのは、ライトな記事を数多く作るのではなく、検索ニーズに沿った、中身のあるコンテンツにすることです。名刺デザインの取り掛かりから完成するまでのステップを図解したり、「よくある質問」でユーザーの疑問を解決したりするなどです。

ページにたどり着いたユーザーが、すぐにでもCanvaを使ってデザインが始められるような情報を揃えるようにしています。このような取り組みの甲斐もあって、SEO効果が効いて「表紙 作成」「バナー 作成」などといった検索キーワードで、上位表示されるようになりました。

一方で、こうした「Doクエリ」に対する対策は、あくまでニーズが顕在化しているユーザーを刈り取るだけの施策にすぎません。一定数のパイを競合サービスと取り合っているだけでは、スケールしないと認識しています。

そこで今後は、ランディングページを制作するだけでなく、「デザインするならCanva」と自然と想起してもらえるよう、ブログに力を入れていく方針です。きちんとしたコンテンツを提供し、被リンクが増えれば、Canvaの本体サイトのオーソリティも上がっていくのではと考えています。


実際にCanvaを使って制作されたフライヤーの数々


Webサービスでもコミュニティを軸に成長

―Webサービスとは言え、オンラインにとどまらず、オフライン施策も検討されているそうですね。

大原:KDDIウェブコミュニケーションズでは、これまでオフラインでのコミュニティを活用したマーケティングにも、力を入れて取り組んできた経緯があります。Webサイト作成サービスの「Jimdo」では、日本各地にコミュニティオーナーがいて、彼らが中心となってコミュニティ運営を行ってきました。

コミュニティは、主にJimdoユーザー同士の悩みや疑問解決の場として機能しており、いわばユーザーにとっての“駆け込み寺”のような役割を担っています。運営のカスタマーサポートではなかなか拾い上げられないような悩みや課題なども、各地のコミュニティで相互に解決し合う仕組みが出来上がっているわけです。

Canvaでも、例えばサービス紹介セミナーの実施など、オンラインにとどまらず様々な施策を講じたいと考えています。個人的にも、Jimdoでやってきたようなコミュニティを基盤としたマーケティングに期待しています。信頼できる第三者から商品を紹介してもらうことが、潜在顧客に対して訴求力が最も高いと考えているからです。

どんな人にでも、周りに価値観を共有できている友人や知人が少なからずいますよね。そのような心理的に近しい人たちから、強く何かをオススメされたら、心を動かされやすいと思います。それは、身近な人たちの体験や意見は、自分にも役立つ確率が高いと経験的に知っているからでしょう。

そうした点でも、すでに信頼関係が出来上がっているJimdoなどのコミュニティを見本に、Canvaに対する認知度や信頼感を高めていけたとしたら、それは強力なプロモーションになるのではないかと考えています。

―最後に、今後Canvaが目指す将来像をお聞かせください。

大原:Canvaのミッションは、「素晴らしいデザインを誰でも簡単にできる世界を作る」ことです。現状、デザインという行為に対しては才能やセンスといった言葉で語られるような、ある種の選民思想的な考え方があるかもしれません。

Canvaでは、手軽に使えるツールの提供を通じて「デザインすること」に対するスキルや心の隔たりを少なくしていき、多くの方がデザインに触れやすい環境を整えることで、最終的に世の中のデザインレベルを少しずつ高められたらうれしいですね。

Canvaのデザイン編集画面